私がオックスフォードに滞在したのは、一九八三年の六月末から八五年の十月初旬にいたる二年四カ月間であった。その間、とても一口では表現できない数々の経験を積むことができた。私がオックスフォードを離れてからすでに七年を経過した今も、それらは常に青春の貴重な思い出として、時間、空間を超えて鮮やかによみがえってくる。その多くが今日の私の生き方にどれだけプラスになっているかは、いうまでもない。
ところで、オックスフォード大学留学中に私の指導教授であったピーター・マサイアス博士は、名著『最初の工業国家』の日本語版への序文で、「私は、‘The First Industrial Nation’の新版へのこの序文を、日本の読者からみれば地球の裏側でしたためている」と記したが、私もまた、二年間にわたるオックスフォードでの思い出を、今、彼の地から見れば地球の裏側に当たる東京で書き進めている。
この文章を書きながら私の脳裏を去来するのは、オックスフォードでの楽しい学生生活である。オックスフォード大学のように長い歴史に裏づけられ、様々な顔を持つ大学の全貌を、二年間という限られた滞在だけで知り尽くすのは不可能である。しかし、私がこの短期間のうちにオックスフォードで得たものは計り知れない。この本を通して、あくまでも一個人の経験の範囲内から見た姿ではあるが、私が彼の地で何を見、何を行い、何を考えたのか少しでも理解していただければ幸いである。
私は本書を二年間の滞在を可能にしてくれた私の両親に捧げたい。両親の協力なくしては、これから書き記す、今にしてみれば夢のような充実した留学生活は、実現しなかったと思われるからである。
一九九二年 冬
※ 第12問の問題文とヒントはここまでです。