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国チャレCS 5 [古典]

("04年2月21日 出題 / 解答数 8)

※ 答案提出は1回限りとなっております。m(_ _)m


  次の文章はある文学作品の序である。これを読み、あとの問いに答えよ。
 (読みやすくするために、原文にない段落分けをしている箇所がある。)

  さいつころ、雲林院(うんりんゐん)の菩提講(ぼだいかう)に詣でてはべりしかば、例の人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁(おきな)二人、嫗(おうな)と行き会ひて、同じ所にゐぬ (1)【めり】。あはれに同じやうなるもののさまかなと見はべりしに、これらうち笑ひ、見かはして言ふやう、

  「年ごろ、昔の人に対面(たいめ)して、いかで世の中の見聞くことどもを (2)【聞こえ合はせ】む、このただいまの入道殿下の御有様をも申し合はせ (3)【ばや】と思ふに、あはれにうれしくも会ひ申したるかな。今ぞ、心やすく黄泉路(よみぢ)もまかるべき。おぼしきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける。かかればこそ、昔の人は、もの言はまほしくなれば、穴を掘りては言ひ入れはべりけめと、覚えはべり。かへすがへすうれしく対面したるかな。さてもいくつにかなりたまひぬる。」 と言へば、いま一人の翁、

  「いくつといふこと、さらに覚えはべらず。ただし、おのれは、故太政(だいじやう)の大臣(おとど)貞信公(ていしんこう)、蔵人(くらうど)の少将と申しし折りの、(4)【小舎人童】、大犬丸(おほいぬまる)ぞかし。ぬしはその御時の母后(ははきさき)の宮の御方の召し使ひ、高名(かうみやう)の大宅(おおやけ)世継(よつぎ)とぞいひはべり (5)【き】かしな。されば、ぬしの御年(みとし)は、おのれにはこよなくまさりたまへらむかし。みづからが小童にてありし時、ぬしは二十五、六ばかりの男(をのこ)にてこそはいませ (6)【き】。」 と言ふめれば、世継、

  「しかしか、さはべりしことなり。さてもぬしの御名(みな)はいかにぞや。」 と言ふめれば、

  「大政大臣殿にて元服つかまつりしとき、『きむぢが姓(しやう)は何(なに)ぞ』と、仰せられしかば、『夏山となむ申す。』と申ししを、やがて繁樹(しげき)となむつけさせたまへりし。」など言ふに、いと (7)【あさましう】なりぬ。

…………( 中略 )…………

  かくて、講師(かうじ)待つほどに、われも人も久しくつれづれなるに、この翁どもの言ふやう、

  「いで、(8)【さうざうしき】に、いざたまへ。昔物語して、このおはさふ人々に、さは古(いにしへ)の世はかくこそはべりけれと、聞かせ奉らむ。」 と言ふめれば、いま一人、

  「しかしか、いと興あることなり。いで、覚えたまへ。時々さるべきことのさしいらへ、繁樹もうち覚えはべらむかし。」 と言ひて、言はむ言はむと思へる気色(けしき)ども、いつしか聞かまほしく、奥ゆかしき心地するに、そこらの人多かりしかど、ものはかばかしく耳とどむるもあらめど、人目にあらはれては、この侍ぞ、よく聞かんと、あど打つめりし。

…………( 後略 )…………


(注) 雲林院 = 現在の京都市北区。 菩提講 = 極楽往生のために「法華経」を講説する法会。
   入道殿下 = 藤原道長。「殿下」は摂政・関白などへの敬称。 黄泉路 = 冥土へ行く道。
   貞信公 = 藤原忠平。基経の四男。 蔵人 = 天皇の生活や職務にかかわる仕事をする。
   少将 = 近衛少将のこと。 母后の宮 = 母であり皇后でもあるの意。 大政大臣殿 = 大政大臣忠平公のお屋敷。
   元服 = 十五歳前後の男子が行う成人の儀式。 講師 = 菩提講で説教をする僧。


(1) 【めり】は婉曲の助動詞である。この「婉曲」の読みを現代仮名遣いで記せ。(10点)

(2) 動詞【聞こえ合はせ】の「活用の種類」と「敬語の種類」の正しい組み合わせを1つ選べ。(10点)
 ア.四段活用−尊敬語  イ.下二段活用−尊敬語
 ウ.四段活用−謙譲語  エ.下二段活用−謙譲語

(3) 【ばや】の意味を次から1つ選べ。(10点)
 ア.禁止 (〜するな)     イ.強意 (特に〜、ひどく〜)
 ウ.自己の願望 (〜したい)  エ.反語 (〜であろうか。いや〜でない)

(4) 【小舎人童】の読みを歴史的仮名遣いで記せ。(10点:中間点あり)

(5)(6) それぞれの【き】を適当な形に活用させよ。終止形でよい場合はそのまま「き」と記せ。(各10点)

(7) 【あさましう】の意味として最も適切なものを次から1つ選べ。(20点)
 ア.嘆かわしい  イ.風流である
 ウ.並々でない  エ.びっくりする

(8) 【さうざうしき】の意味として最も適切なものを次から1つ選べ。(20点)
 ア.心寂しい   イ.やかましい
 ウ.なつかしい  エ.待ちかねている


解答

番号正解正解者数
(1)えんきょく6名
(2)エ.下二段活用−謙譲語6名
(3)ウ.自己の願望 (〜したい)6名
(4)こどねりわらは6名
(5)6名
(6)しか6名
(7)エ.びっくりする6名
(8)ア.心寂しい5名


解説

(2) 「聞こえ合はせ」

  また「聞こゆ」は「申し上げる」の意味で謙譲語です。

(5)(6) 係助詞「ぞ」「こそ」による係り結びの法則です。

(7) 「あさまし」…… 動詞「浅む」が形容詞化したもので、予想外のことに驚き、あきれる意味です。

(8) 「さうざうし」……「索索(さくさく)し」から転じたもので、一人で物寂しい意味の漢語「索」から発生したと考えられるものです。


成績

順位ハンドル素点所用時間
ひでゆきボン さん100点9分40秒
小杉原 啓 さん100点11分32秒
辻。さん100点12分25秒
LION さん100点17分55秒
CRYING DOLPHIN さん100点23分04秒
みぞにゃん さん80点27分57秒

おめでとうございます!


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Author: Mikitty
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