国チャレ　第155回

("03年６月30日 出題 / アクセス数 397)

　　次の文章の空欄 (　1　)〜(　4　) にあてはまる接続語を、それぞれの選択肢から１つずつ選べ。

(1)　ア．しかし　　イ．また　　ウ．あるいは　　エ．そもそも

(2)　ア．それとも　　イ．なぜなら　　ウ．けれども　　エ．そして

(3)　ア．しかし　　イ．つまり　　ウ．したがって　　エ．そもそも

(4)　ア．そして　　イ．ならびに　　ウ．では　　エ．もしくは

　　高校生に「愛読書は。」と聞くと、依然として夏目漱石を答える人が多いそうだ。これはずいぶん前からそうだった。「愛読書は漱石です。」などという高校生に会うと、私は「それはいいね。」と答えることにしているが、それは本音(ほんね)ではない。高校生ぐらいで漱石の『草枕』や『吾輩は猫である』が面白いというのは天才か、早熟か、ハッタリに違いないと思ってしまうのである。

　　私は高校生の時に漱石を一冊も読まなかった。正確に言えば、読めなかった。中学一年で使った『岩波国語』に「峠の茶屋」というのがあったが、あれは後で考えると『草枕』の一節だったと思うが、それぐらいがせいぜいで、どうも漱石は読めない作家だった。みんながほめる大作家だから読んでみようと思って時々は手を出すのだけれども、読み通したことがなかった。

　　この漱石を読めない状態は大学に入っても続く。大学一年生の夏休みに今度こそ『草枕』を通読してやろうと思って読みだしたが、ついに読み終えることができないでしまったという挫折(ざせつ)感の記憶がある。

　　(　1　) 私は当時、決して怠惰(たいだ)な学生ではなかったし、読んでいた本も幼稚なものばかりではなかった。『草枕』を読みそこねた例の夏休みにも、毎日千ページ以上の本を読もうという計画を立て、少なくとも最初の数日間は実行したくらいだからである。

　　朝起きるとまず英語の本を読む。朝食後、弁当を持って図書館に行く。(　2　) 二十ページぐらい読むと日本語の教養書を読む。岩波新書がそれである。それを一冊読み上げたところで昼飯にして、午後は小説を読む。夜も友だちとダベらなければ小説を読む。小説のほうには吉川英治、石坂洋次郎、落語全集なども入れるから早く読める。こうすると、とにかく千ページは読めた。こうして読んだ中には岩波新書の『コンドルセ』などあったことを今憶(おも)い出したが、もちろん内容は少しも憶えていない。

　　では私は量だけ求めてくだらない本ばかり読んでいたのか、と言えば、必ずしもそうとも思わない。英語のものではとにかくブランデンの講義集とか、コールリッジのシェイクスピア論とか、ディケンズの『二都物語』があったし、国文学では『伊勢物語』を藤井高尚(ふじいたかなお)で、また『新古今』も窪田空穂(くぼたうつぼ)註解本(ちゅうかいぼん)でなめるように読んでいたし、漢文は尚書(しょうしょ)を講道館本で、孟子(もうし)を朱子集註(しゅししっちゅう)で勉強していたうえに、字並べに過ぎないけれども漢詩を作り、添削を受けていた。通俗小説ばかり読んでいたのではないのである。

　　ところが、みんながよく読んでいるらしい漱石は通読できない。これは読者の側である私のほうが少しおかしかったのか、それとも漱石がそれほどむずかしかったのだろうか。それは後者であったのだと私は断言する。というのは、それから二、三年して私は漱石を読まない日はないほど熱中しはじめるのだから。(　3　) 漱石がわかりはじめるのだから。大学二年ごろまでどうしても漱石が読めなかったのは、要するに私の頭が幼稚だったためなのである。それだから、いったん漱石の世界に目が開けると、漱石ならでは夜(よ)も日も明けぬぐらいに熱中するようになったのだと思う。

　　(　4　)、なぜ漱石は私にとってそんなにむずかしい作家だったのであろうか。そのむずかしさを考えてみることは、漱石文学の一つの特徴に光をあてることになるかも知れない。

(渡部昇一『教養の伝統について』)

(注)　尚書 ＝ 『経書』の宋代以前の呼称。

※　第155回の答案提出は ２回まで とさせていただきます。

解答

(1)　ア　　(2)　エ　　(3)　イ　　(4)　ウ

成績優秀者

　(参加 20名 / ７月７日 確定)

※　翔大さんの解答は、〆切を過ぎていたため無効とさせていただきます。m(..)m

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