国チャレ　第145回

("03年４月21日 出題 / アクセス数 546)

　　次の文章を読み、あとの問いに答えよ。

　　電車に乗ると、人の行いが気にかかる。我ながら歳を取ったなと思いつつ、あたりを見渡しているうちに、あれもこれも気に障ってくるのである。

　　先日、電車に乗っていたら、向かい側に座った若い男が、二人分の席を我がもの顔に占領し、ゆうゆうたる態度だった。身体の左右にあいたスペースなど、なんのその。他の人が近づいてきても、座席をつめてあげようなんて気はさらさらないらしい。

　　そのとき、私は男の真向かいの席に座っていたのだが、あまりの男の無神経さに腹が立ち、じっと睨んでやった。男はまもなく私の視線に気づいたが、それでも平然と、隣に座る友人らしき男との話に夢中になっている。

　　私は咳払いをしながら、自分の身体を思い切り縮め、こういうふうにするものですよと男の良心に訴えたのだが、いっこうに効果はなく、私の隣にできた小さな隙間には、別のおばさんのお尻が無理矢理差し込まれた。

　　まもなく乗り換え駅に到着したので、私は降りるために立ち上がり、最後のとどめとばかり、無礼男の脇を通過する際、「やれやれ、情けない。」といった意味を込め、大げさに溜め息をついてみた。が、これもテキの [　Ａ　] を呼び覚ますにはいたらなかったようである。

　　さて、これでこの話は終わるはずだったのだが、ちょっとばかり続きがある。

　　電車を降りて、別の路線のホームに立っていた私の背中に、なんとなく視線を感じ、振り向いたところ、そこには、先刻の無礼男が立っていた。私を睨み返すかと思いきや、意味あり気な目で、じっとこちらを見つめている。

　　なんたることか。このトンチンカン男めは、私が気があると思ったらしいのである。

　　昔から私には、意図するしないにかかわらず、人様を睨みつける癖がある。

　　テレビの仕事を始めたばかりの頃、失敗してはなるまいとカメラをじっと見つめ過ぎてよく叱られた。

　　「あまり厳しい顔で睨むから、画面を見ていると怖くなるんだ。」

　　そこで一転、慣れぬ笑顔を浮かべることに専念していると、あるとき、視聴者の方に注意された。

　　「真面目なニュース番組でヘラヘラと笑うものではない。不謹慎ですよ。」

　　どうも、ほどほどということが苦手なのである。

　　(Ｂ) 目病み女に風邪ひき男。

　　少しだけ視力の弱い女の人がうらやましい。そういう人は、駅などで会っても、なかなか相手に気づかない。近くに接近してきてようやく、

　　「あら、あなただったのね。ごめんなさい。あたし、目が悪くって。」

　　ポワンと潤んだ瞳で言われれば、たとい無視されても、いい女だと思うだろう。

　　かたや、遥か遠くからじっと相手を睨みつけ、近づいてくるなり、

　　「どこ見てんのよ。あたしゃ、ずっと前から気がついているのよ。さっきお尻掻いてたでしょ。」

　　目のいい女は色気に欠ける。

　　(Ｃ) どちらのタイプかと問われれば、私は明らかに、後者である。

　　かつて一度だけ、視力が極端に落ちたことがある。

　　中学一年生の春、視力検査をしたときだった。当時、私は生真面目な性格だった上に、入学まもなくで緊張していたせいもあり、先生の指示にきちんと従っていた。そこで、

　　「ではまず、その銀色のスプーンを左目にあてて、右の目で、私が指す文字を読んでください。」

　　言われるままに、目の前に置かれたスプーンを手に取り、おお、冷たいと思いながら、しっかり左目に押しあてて、

　　「イー、アー、トー、チー、リー。」

　　「一・二。はい、結構です。じゃ、反対の目にいきます。」

　　今度はスプーンを右の目にあてる。すると、

　　「ワー、キー、あれ、わかりません……、ウー、いや、リかな？」

　　なんだか目の前がボーっとかすんで、よく見えないのである。

　　「はい、〇・五。あなた、ずいぶんガチャ目ねえ。じゃ、次の人。」

　　はて原因はスプーンを強く押しあて過ぎたせいだと気づいたのは、検査室を出たあとのことだった。

(阿川佐和子の文章より)

(1)　この文章に最もふさわしい題を、次のア〜エのうちから１つ選べ。
　ア．視力　　イ．礼儀　　ウ．睨み目　　エ．無神経

(2)　この文章は、取り上げられている話題に注目すると、大きく４つの部分に分けられる。その４つ目はどこから始まるか。最初の５字を書き抜け。(句読点や記号も字数に含む。(Ｂ)，(Ｃ) は無視して良い。)

(3)　空欄 [　Ａ　] に入れるのに最も適切な言葉を、次のア〜エのうちから１つ選べ。
　ア．価値観　　イ．道徳観　　ウ．鈍感さ　　エ．無神経

(4)　下線部 (Ｂ)「目病み女に風邪ひき男」とはどういう意味か。その説明として最も適切なものを、次のア〜エのうちから１つ選べ。
　ア．目をわずらっている女と風邪をひいている男は、潤んだ瞳で相手にせまる。
　イ．目をわずらっている女と風邪をひいている男は、よく通りすがりの人を無視する。
　ウ．目をわずらっている女と風邪をひいている男は、かえって粋(いき)で魅力的に見える。
　エ．目をわずらっている女と風邪をひいている男は、よくお似合いだと昔から言われている。

(5)　下線部 (Ｃ)「どちらのタイプかと問われれば、私は明らかに、後者である。」とあるが、筆者はどのような人であると言っているのか。次のア〜エのうちから最も適切なものを１つ選べ。
　ア．目はいいが、色気にかける人。
　イ．真面目な場でヘラヘラ笑う不謹慎な人。
　ウ．生真面目な性格で、先生の指示にきちんと従う人。
　エ．目が悪く、知り合いがいるのに気づかないこともある人。

解答

(1)　ウ　　(2)　かつて一度　　(3)　イ　　(4)　ウ　　(5)　ア

※　「出口の現代文 レベル別問題集１【超基礎編】」問題１より引用。

成績優秀者

　(参加 25名 / ４月28日 確定)

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