マサル王国には代々伝わる秘宝があります。何でも切れる斬鉄剣(第 90 回)や、わずか数個のおもりで 1 g から 40 g まで量れる魔法の天秤(第 71 回)が有名ですが、傾けて使う正六角柱グラス(第 123 回)もその一つです。ところが、トラ帝国が攻めてきて、宝物庫にミサイルが命中してしまいました。
アキ大臣 | 「王様、大変です。秘宝の六角柱グラスが穴だらけです。」 |
マサル王 | 「それは困った、春のお水取りの儀式ができないではないか。」 |
ユー姫 | 「大丈夫です、王様。ほら、穴をふさぐパッチが見つかりました。」 |
アキ大臣 | 「でかした。でもたった 1 個では.......。どの穴をふさいだらよいものか.....。」 |
(背景はこの程度にしておいて、ここからが問題です。)
ふたの無い正六角柱型の容器が 2 つあります。2 つの容器は形も大きさも同じで、底辺の正六角形の各辺の長さが 3 cm、容器の高さが 7 cm です。ただし A の容器には、図に示す様に 7 個の小さな穴が空いています(※ 1)。この穴を 1 つだけふさぎ、どこからも水が漏れないように注意して(※ 2)、できるだけ多くの水を入れました。この時、容器を傾けても構いません。
入れた水を、穴の空いていない B の容器に移し替え、B の容器の底が水平になるように置きました。最も深い場合、水の深さは何 cm になるでしょうか。
※ 1 | 穴の位置が見やすい様に展開図にしました。正六角柱容器はこれを組み立てた形です。 もちろん 「辺」 の接着部で水が漏れるようなことはありません。 穴を赤丸で表しています。破線は穴の位置を示すためのものです。 穴の大きさや、容器の厚みは無視して下さい。 |
※ 2 | 大きさが無視できるほど小さいとは言え、穴が水面下にあると水が漏れてしまいます。 |
出題: ありさのお父さん さん
解答: 379/252 cm
解説:
前回(算トラ2)の分数の角度の問題(フランクリンの凧)が,「難しすぎた」あ るいは「自分勝手すぎた」との反省にたって,今回は易しくしようと思いました。し かし,はじめは穴が1つの比較的簡単な問題だったのですが,締切まで時間があった ので色々といじっているうちに,またまたややこしい問題になってしまいました。 この問題には,3つの罠があります。それは, (1) 底の中央の穴をふさぐ場合の 3/4 (= 1.33....) cm では最も深くならない。 (2) 3 cm,4 cm,底の中央の3つの穴で水面をつくると,グラスの口(上端)から水 がこぼれる。 (3) 4 cm の穴を通る水面の最深値は 92/63 (= 1.46....) cm だが,これよりも 3 cm の穴を通る水面の最深値 252/379 (= 1.50....) cm の方が深い。 作者としては (3) の罠がとても気に入っています。算トラ三連覇(!)の長野美 光さんや Hamayan さんにも見事にはまっていただきました。(ヽ(^o^)丿)(正解者 掲示板参照) では,解説に入りますが,その前にもう一言。 底面の大きさ(正六角形の一辺の長さ = 3 cm)には関係なく答えが求まります。 正直に 3 cm を入れて計算した人はいないと思いますが,もしいらしたらごめんなさ い。 1.底をふさぐと深さは 3/4 cm さて,一見すると底の中央の穴をふさげばいいように見えます。その時の最深の水 の深さは,4/3 cm になります。これは,1 cm,1 cm,2 cm の穴が水面を作る場合で, 中央の深さが3点の平均の 4/3 cm とすぐ分かりますね。図1の様に,2 cm の穴 と正六角柱の軸を含む面で切断すると,もっと分かりやすいでしょう。一番浅い所で も 2/3 cm の深さで,底面のどこも水から顔を出していません。底の一部が水面の上 に出たり,水が容器の口からこぼれない限り,グラスを傾けても中央での水の深さは 変わらないことは,対称性から明らかですね。
2.底をふさがない場合は,2 cm の穴をふさぐと良い 次に底の穴をふさがない場合を考えましょう。 底の穴があいたままですから,当然グラスを傾けないと沢山の水は入りません。す ると側面にあいた6つの穴のうち,3つは水面上に出るので,ふさぐ必要はありませ ん。残りの3つの穴ができる限り上にある方が沢山の水が入ることから,3 cm と 4 cm の穴の間の 2 cm の穴をふさぐと良いことが分かります。 3.水深を求める3つのステップ ここからは,水の深さは3つのステップで計算します。 (1) 水面が通る3点を決める。 (2) 正六角柱の各辺(上から見ると正六角形の各頂点)で正六角柱の軸に平行な方向 に測った水の深さ(言い換えると,水面が正六角柱の各辺を切断する高さ)を求める。 (3) (2)の各辺の水の深さから,平均の水の深さを求める。 4.各辺での水深を求める方法 3の(1) の3点を決めたあと,(2) の各辺の水深(各辺が水面に切断される高さ) を求めるには,次の法則を使いました。それは,「水面上に一直線に A, B, C の順 に並んだ3点があり,AB = BC で,A の水深が a,B の水深が a+h なら,C の水深 は a+2h になる。」という法則です。 これは,A を通る底に平行な面に B, C から垂線を下ろしその足を B', C' とする と,△ABB' と△ACC' が相似比 1:2 で相似になり,CC' = 2*BB' = 2h から説明でき ます。水面上の各点に水深という数を与える点がちょっと特殊かも知れませんが,小 学生にも明らかだと思います。 では,実例で考えてみます。 5.底, 3 cm, 4 cm の穴で水面を作ると容器の口から水がこぼれる 先ず,単純に最も深くなると考えられる,3 cmと4 cmの穴と底の中央の穴の3点を 結ぶ平面で水面をつくってみます。すると図2のように, (1) 底の中央の穴から 3 cm の穴まで直線を結び,2倍に伸ばした点の深さは 6 cm になります。 (2) 同様に底中央の穴と 4 cm の穴を結んで2倍に伸ばした点の水深は 8 cm。 (3) このふたつから B での水面の高さが22/3 cmになり,容器の高さの7cmより深く なります。 すなわち,容器の口から水がこぼれてしまうので,この3点の選び方は不適当です。
水をこぼさず,かつなるべく沢山の水を入れるには,水面がグラスの口ぎりぎりに なるよう,言い換えると辺(上から見ると正六角形の各頂点)の水深が 7 cm になる ように水面を選べば良いのです。したがって,辺のどれかを 7 cm にし,底中央,3 cm,4 cm の3点から2点を選んで,水面を作ることにします。 6.底の穴と 3 cm の穴が作る水面(379/252 cm で最深) いろいろやってみると,図3の様に,B 点(深さ 7 cm)と,底中央の穴,3 cmの 穴の3点を結ぶ平面が水面になる場合が,一番沢山水が入ります。
先ず,実際に各辺での水深を求めてみましょう。図4はグラスの上方から見たもの です。最初に赤字で書いた底中央の穴(0 cm),3 cm の穴,B 点(7cm) の3点の深 さが与えられています。 (1) 底中央の穴から 3 cm の穴を結び,2倍に伸ばした点の深さは 6 cm。 (2) (1) と B 点の深さが 7 cm から,C 点の深さは 13/2 cm 。 (3) C 点(13/2 cm)と 3 cm の穴から,D 点の深さは -1/2 cm。 (4) D 点(-1/2 cm)と底中央の穴(0 cm)から,A 点は 1/2 cm。 (5) C 点(13/2 cm)と底中央の穴(0 cm)から,F 点は -13/2 cm。 (6) なお,A 点と B 点の間の 4 cm の穴の場所の水深は, A 点(1/2 cm)と B 点 (7 cm)から 15/4 cm で,4 cm の穴は水面上にあり,水は漏れません。
次に,グラスの上方からみて三角形になる部分ごとに縦に分割すると,水が作る立 体は,斜めに切った三角柱か三角錐になります。中央の点を O,水面とAF, CDが作る 点を G, H とすると,それぞれの立体の底辺となる三角形の頂点の水深は, (1) △OCH は,0, 13/2, 0 (2) △OBC は,0, 7, 13/2 (3) △OAB は,0, 1/2, 7 (4) △OGA は,0, 0, 1/2 となります。 それぞれを別々に穴の無い容器に移すと考えると,深さは, (3点の平均で1/3)*(底面積)*(3点の高さの合計)となり, (1) 1/3 * 1/6 * 13/14 * 13/2 (2) 1/3 * 1/6 * 27/2 (3) 1/3 * 1/6 * 15/2 (4) 1/3 * 1/6 * 1/14 * 1/2 で合計すると, 1/3 * 1/6 * 1/2 * (169/14 + 27 + 15 + 1/14) = 1/36 * (170+42*14)/14 = 379/252 (= 1.50....) これが答えです。 ちなみに379は素数です。(だから,どうした。) 7.底の穴と 4 cm の穴が作る水面(92/63 cm で2番目に深い) それ以外の水面の選び方も検討しておきます。 水が漏れないものとして,最初に述べた 4 cm の穴を通るものを図5に示します。 各辺での水深は, (1) 底中央の穴から 4 cm の穴を結び,2倍に伸ばした点の深さは 8 cm。 (2) (1) と B の深さが 7 cm から,C 点の深さは 6 cm。 (3) 4 cm の穴と B(7 cm)から A 点の深さは 1 cm。 (4) A 点(1 cm)と底中央(0 cm)から,D 点の深さは -1 cm。 (5) C 点と D 点の間の 3 cm の穴の場所の水深は, D 点(-1cm)と C 点 (6 cm) から 5/2 cm で,3 cm の穴は水面上にあり,水は漏れません。
これらから,三角形の頂点の水深は, (1) △OCH' は,0, 6, 0 (2) △OBC は,0, 7, 6 (3) △OAB は,0, 1, 7 (4) △OG'A は,0, 0, 1 で,穴の無い容器に移したときの深さは, (1) 1/3 * 1/6 * 6/7 * 6 (2) 1/3 * 1/6 * 13 (3) 1/3 * 1/6 * 8 (4) 1/3 * 1/6 * 1/7 * 1 で合計すると, 1/3 * 1/6 * 1/7 * (36 + 91 + 56 + 1) = 92/63 (= 1.46....) で,先ほどの答えよりは浅くなります。 8.その他の場合(水が漏れる場合) その他の,グラスの上端(口)や穴から水が漏れてしまう水面の選び方を,図6− 1から図6−3に示します。説明は省略しますが,各図で,赤字で深さを書いた3点 から水面を作ると,×をつけたところから水が漏れてしまいます。